*恋人・同棲設定です。
風邪


「・・・頭痛い・・・」

そうポツリと呟くとクリスティーヌはそこにあるソファに蹲った。
ファントムは仕事に行ってしまってまだ帰ってこない。
チョコチョコと後を付けて来ていたアイシャがクリスティーヌを見上げ、
「にゃあ」と鳴いた。
その声に薄く目を開けるとクリスティーヌはアイシャに手を伸ばす。

「おいでぇ」

アイシャはその伸ばした手に頭を擦り付けゴロゴロと喉を鳴らす。
いつもは軽く持ち上げる小さなアイシャが重たく感じた。
そのまま自分の胸元にアイシャを抱え込むとクリスティーヌは気を失うようにそのまま眠ってしまった。


「・・・ティーヌ、クリスティーヌ!」

自分を呼ぶ声にうっすら目を開けた。
額には大きな手が当てられている。

「・・・酷い熱だな・・・」

小さい反応を確認し、ファントムはクリスティーヌを抱き上げるとベットに運んだ。
抱えたままのアイシャがそのまま胸元に居るのを見て、

「・・お前が暖めていたのか?」

と声を掛ける。
「にゅ〜ん」と小さく鳴くとクリスティーヌの白い手の下に頭を入れる。
いつもの様に撫でて欲しそうに。
ピクッとその手が小さく動き、アイシャの頭を包み込んだ。

扉を開けベットにそっと身体を下ろす。
ファントムはチェストを開けると、クリスティーヌのネグリジェを出す。
着替えさせようとブラウスに手を掛けたが、少し躊躇し、

「・・・クリスティーヌ、起きて着替える事ができるか?」

と声を掛けた。
クリスティーヌは力無くその首を横に振る。
もう意識が朦朧としていて判断は難しかった。
ファントムはその様子を確かめるとそのままボタンを外し、
服を脱がせ着替えを済ませた。
しっかりとその身体を布団の中に包み込むと、
一旦部屋を出る。
暫くして、なにやら色々と持って部屋に戻って来た。

額には水に浸したタオルが置かれる。
部屋には沸かした湯が運び込まれ湿度を上げた。
そのクリスティーヌの傍に長椅子を移動させると自分もそこに横になる。
付きっ切りで看病をする。
「う・・ん」
小さな声を上げた時、そっと声を掛ける。
「・・辛いか?少し水を飲もう」
そう言ってその熱で火照った身体を自分の身体に預けるように上体を起こす。
水差しと一緒に何か粉の様な物を飲ませた。
「?・・・なに?」
少し苦味のあるそれが口に入ると目を瞑ったまま顔を歪ませる。
「・・・風邪薬だ。熱が下がってくるから頑張って飲み込みなさい」
求めるように水差しから水を飲んだ。
「ハァ・・」
力なく息を付くとそのまままた眠りに付くように目が閉じられる。
その額をそっと撫でると唇を寄せた。
「・・おやすみ・・・」

暫くは落ち着いて眠っていたクリスティーヌが夜中にうなされる。
その声に慌てて起き上がるとその瞳からは大粒の涙が零れていた。
「クリスティーヌ、どうした?」
小さく灯された明かりの元で優しく声を掛ける。
クリスティーヌは虚ろな目でファントムを探す。
「エリック・・・良かった・・・」
そう言いながら微笑む。
「?・・・何が良かったんだ?」
涙を拭いながら聞いた。
フウ・・と息を付きながら小声で話す。
「何処を・・探しても、あなたが居ないんですもん・・・」
その言葉になんだか胸が痛い感じがする。
まだ下がる気配の見えないクリスティーヌの赤みを帯びたその頬に手を触れる。
「・・・私はお前の傍に居る・・・」
そう言いながら唇にキスをした。
クリスティーヌがそっと顔を背ける。
「・・どうした?」
「エリックに移るわ・・・」
「大丈夫だ・・・クリスティーヌ」
そう言うともう一度唇を重ねた。
「・・ゆっくりおやすみ」
そう言うとクリスティーヌが寝付くまでその手を握り締めた。

それから3日間、クリスティーヌの熱は下がらず、
5日目にようやく起き上がることが出来るようになった。
少しづつ食事も取れるようになる。
ファントムはそれは甲斐甲斐しく看病をした。

途中、お見舞いに来たジリーとメグはその過保護っぷりに顔が赤くなるほどだった。
2人にお茶を・・・と席を外したファントムにジリーが「手伝うわ」と部屋を出ると、
メグがすかさずクリスティーヌに聞いてきた。
「ねえ、ず〜っとあんな調子なわけ?」
「え?なにが?」
「ファントムがよ〜!もう!クリスティーヌも甘えた顔しちゃって!」
ポッと顔が赤くなる。
部屋に戻ったファントムがその顔を見て、
「また熱が上がったんじゃないか?」と予想通りの心配をする。
それを見てメグがニヤっとすると、クリスティーヌはさらに赤い顔になった。

それからさらに3日後にはクリスティーヌも全快をし、
ベットから抜け出した。
「エリック、どうもありがとう。お陰で元気になったわ」
そう言って優しい口付けをその頬に落とした。
触れたその頬が熱く感じる。

「・・・エリック、熱があるんじゃない?」

「・・・そんな事無いだろう」

「だって・・・あなた熱いわ!」

クリスティーヌがファントムの顔を両手で挟む。
そっと自分の額をファントムの額につける。

「・・・やっぱり・・・移っちゃったんだわ・・・」

(「そりゃあ・・・そうよね。キスとかしちゃったんだもん」)
クリスティーヌはファントムの腕を掴むと今度はファントムの部屋に行く。
「大丈夫だ」と言い張るファントムを無理やりベットに押し込んだ。

「さあ、早く寝間着に着替えて」

そう言いながらファントムにそれを手渡す。
が、その時クリスティーヌがキュッとそれを掴んだ。
ちょっと考えるとファントムに聞いてきた。

「ねえ、エリック・・・私はいつ着替えたの?」

その質問にファントムが少し戸惑った。
泳ぐ瞳を瞑ると、

「・・私が・・」

そう言うとクリスティーヌは真っ赤な顔をしたかと思うと、
両手で顔を隠した。

「クリスティーヌ・・・」

「恥ずかしい!!!!!」

「・・・でも、あの時のお前ではとてもそれは出来なかった」

そう優しく言う。
「そうね」と小さく返事をして振り返ると服を脱ぎ始めたファントムが目に入った。

「きゃあああああ!」

その声に驚きファントムは手が止まった。
振り返るとさらに赤面をしてその場に蹲るクリスティーヌを見つける。
フッと笑うと蹲っているクリスティーヌの傍に行く。

「・・・いつも見ているだろう」

少し意地悪くその耳元に囁いてみた。
クリスティーヌは真っ赤な顔で振り返るとその肌蹴たまま自分の傍に来たファントムのボタンを急いで留める。
少し涙を浮かべ、その照れて怒った顔のままファントムを立たせるとベットに押し込んだ。
バサッと毛布を掛けると、

「もう!バカ!」

とプゥと頬を膨らませた。
「はいはい」と小さく返事をしてファントムが横になる。

その夜、自分でも想像していなかった以上の熱が出た。
夜中にフッと目が覚めるとクリスティーヌがその傍らにいる。

「目、覚めた?」

「・・・ああ」

掠れた声で返事をした。
額に手を置くと汗が凄かった。
クリスティーヌがその服を着替えようと声を掛ける。
今度は昼の時とは全く違い、恥ずかしがる事もせずそのシャツをファントムから剥がす。
背中を拭き、新しいシャツを肩に掛ける。
横になったファントムに、

「ねえ、私に飲ませてくれた薬は何処にあるの?」

と聞いてきた。
「それはキッチンに・・」と伝えるとクリスティーヌは優しい微笑を残して扉に消えていく。
一瞬眠ったのだろう。
「エリック・・・ごめんね」
ともう一度その声で起こされる。
開けた目の前にはクリスティーヌがその包みを持っていた。
「エリックもこれ・・・飲んで」
その薬を口に入れると水差しから水を飲む。
心配そうに覗き込むクリスティーヌに微笑む。
「・・・大丈夫だ」
その頬にそっと手を添える。
自分がしていたようにクリスティーヌがその横に長椅子を持って来ていた。
その様子を見て、
「・・・クリスティーヌ、自分の部屋で休みなさい」
そう言うと首を横に振る。
「ここに居るわ・・・だって、あなたはずっと私の傍に居てくれたもの」
「・・しかし、それでまた移ったりしたら・・・」
「そうしたらまた、あなたに看病してもらうわ」
そう言って額にキスをした。

そっと撫でられるその手のリズムがファントムの眠りを誘う。
まるで子供のように・・・

「・・・クリスティーヌ・・・」

「ここに居るわ・・・」

風邪を引いてみるのも良いものだ・・・と不覚にも思ったりした。

その手が・・・優しい・・・






薔薇のはなびらあみんた様から頂きました。
クリスティーヌの寝込みから、ファントムの寝込みまで!
な ん て 美 味 し い ん で し ょ う !
2人がラブラブで、看病風景に激しく萌えます。恥ずかしがるクリスティーヌに萌萌です。
ファントムが大人で、ちょっと意地悪でセクシーで、そんな彼の寝込む姿が読めてとても嬉しいです!
アミンタさん、素敵なSSほんとうに有り難うございました

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